「日本-パラオ 2024」を終えて

「日本-パラオ親善ヨットレース 2024」は無事終了。
いや、横浜をスタートした3艇中1艇〈PALMA II〉は荒天時の艇体トラブルとのことでリタイアしてしまったのは残念ですが、自力で小笠原まで避航し無事着岸、乗員にも怪我なく幸いではあります。

伊豆諸島の東は

レースの方は、スタート時点ですでにレース海面を東進する低気圧が予想されていました。これをどう乗り切るか。

TCC(時間修正係数)が1.218と最も大きい──つまり早くフィニッシュしなければならない──〈1122トレッキー〉は大きく西へ。
実はこの〈トレッキー〉、前回大会でも同様にスタート直後から大きく西へ向かい、那智勝浦港に避難入港しています。今回は伊良湖港に入ったもよう。

低気圧は発達しながら東進し強い南から南西の風が吹き込み、つまり向かい風となります。低気圧の通過後は風は北へ振れるわけですから、より西よりに位置して低気圧と遭遇した方が有利といえるわけです。
が、それにしても……。

一方〈ゼロ〉は新島と神津島の間を抜けてやや西へ。〈パルマⅡ〉はほぼ南へ……からの東よりに針路をとります。

結果、最も東で低気圧と立ち向かうことになった〈パルマⅡ〉。低気圧は発達し、より長時間南寄りの風を真正面から受けるはめになった……ということか?

前回の「パラオレース2019」スタート前にこちら日パラ通信で書いた記事、

の中で、『KAZI』1992年4月号に掲載された〈みずほ〉河原船長の談話、

「ヨット乗りなら皆十分承知のはずなのになぜみんな{伊豆諸島の}東側に行ったのだろうか。大体寒冷前線は伊豆諸島や小笠原諸島の東側に出てから猛烈に発達するんです」

が、転載されています。
うーむ、まさに伊豆諸島の東はリスク高いということなのでしょうか。

猛追及ばず

移動性低気圧はより西で乗り越えろ……とはいえ、さすがに伊良湖水道まで西進するのは……。

ということで、大きく遅れをとった〈トレッキー〉ですが、そのスピードにものをいわせて猛追します。そして並びます。

ここで「マッチレース」という声がそこかしこから挙がったのですが、これはIRCのレーティングを元にしたハンディキャップレースです。成績は、所要時間(ET)にIRCの修正係数(TCC)かけた修正時間(CT)で競います。
追いつき追い越した〈トレッキー〉のTCC1.218。追う〈ゼロ〉のTCCは1.052。
〈トレッキー〉はさらに引き離さなければ勝てないわけで、前に出た〈トレッキー〉でも“まだ追っている”という表現の方が良かろうかと。

最終結果はこちら

ファーストホームの〈トレッキー〉は、3/22 05:09:56秒フィニッシュで修正時間(CT)が1,226,278秒。
対する〈Zero〉は1,085,232秒。その差、141,046秒。14万1千46秒……といわれてもピンとこない。
÷3600で39.17時間なんですけど。そもそも修正時間の差を出してもあまり意味はありません。

〈トレッキー〉はいつまでにフィニッシュしていれば勝てていたのか。という話なので。
そこで、スクラッチシートを作って計算しよう、と前に書いた記事の意味はここにあります。

Excelシートを使って改めて計算すると。

〈ゼロ〉をターゲットとしてその所要時間(286.6時間)にTCC(1.052)を掛けた値=修正時間:1,085,232秒、と修正時間が同じになる他艇のフィニッシュ時間を計算したものです。
計算式は〈ゼロ〉の所要時間(ET)×〈ゼロ〉のTCC ÷〈トレッキー〉のTCC。……で所要時間は出ますが、その所要時間になるには、何日の何時何分のフィニッシュになるのか。ここだけでも、電卓で計算するの無理。デイ・レースで10時キッカリにスタートとかならまだしも、日をまたぐ長距離レースになるとExcel使わないと。で、Excel使うにしても、日時の処理はけっこうクセがありまして。
……というのが前回のテーマだったわけで。

こちらでも頭がこんがらがってくるので、欄外に検算として各艇の修正時間(CT)を秒単位で計算させてます。このフィニッシュタイムなら修正時間は皆同じ、1,085,232秒ということ。

ということで、〈トレッキー〉は3月20日 20:59より早くフィニッシュしなければ負け。実際のフィニッシュは3/22の05:09ですから、その差は、32時間10分1秒差。と、ここもexcelで計算してみました。

ということで、
〈ゼロ〉は32時間10分1秒の大差をつけての優勝、ということになります。おめでとうございます!!

「パラオ-沖縄」では、、

今週3月31日にパラオをスタートする「パラオ-沖縄」は、15分間隔で1艇づつスタートすることになっています。
スタート海面が狭いので安全のためにということのようですが。
接戦になったらこの15分の差がほんとにヤヤコシイことになりそうで。スクラッチシートがないと。

ということで、新たに“時間差スタート”に対応したスクラッチシートを作ってみました。

スタートはバラバラなのですが、〈トレッキー〉が4月8日の午前0時にフィニッシュしたとすると、修正時間が同じになるのは、〈ゼロ〉で4月9日04:06。〈パルマⅡ〉で8日の07:56。それより早ければ勝ち、遅ければ負け、となります。

こうしてみると、1週間にも及ぶ外洋レースでは、修正時間は秒ではなく、日時分秒で表示したほうが解りやすいと思うのですが、なぜ秒表示が多いのか。

IRCルール12.2では所用時間×TCC で、“四捨五入して秒単位で表す(Corrected times shall be rounded to the nearest second with 0.5 seconds rounding up)” となっておりまして。
計算の元になる所用時間の部分も秒単位でなければならず……ってタイムは秒以下を測っていないので当然ですが。
しかし、前に書いたようにexcelで日時を表すシリアル値は、1日(24時間)がシリアル値の「1」なんで、1時間は1÷24=0.416666とここからすでに割り切れません。
つまり、シリアル値を ×24×60×60 すると秒の数値になるのですが、これには小数点以下の数値もついてきてしまうのです。秒以下は測ってないのに……。となると、ここで一旦小数点以下をまるめて整数の数値としての“秒”の値として確定する必要があります。

ということで、正式の成績表では最終結果としての修正時間は秒表示になっているのだと思います。長距離レースだと桁数が多くなってきわめて解りにくいけど。

ちなみに上のスクラッチシートはすべてシリアル値のママで計算しています。
で、勝ち負けをざっと判断するスクラッチシートですから、見やすい xxhxxm表示。あるいはxx.x時間表示にしています。