スクラッチシートを作る

「日本-パラオ 2024」「パラオ-沖縄 2024」両レースのエントリーリストと各艇のTCCが発表されました。

「日本-パラオ 2024」の公式掲示板は→こちら
「パラオ-沖縄 2024」の公式掲示板は→こちら

「日本-パラオ 2019-2020」時に書いた「レース観戦ガイド」でハンディキャプについて説明しています。

前回の「日本-パラオ 2019-2020」では、PHRF、IRC、ORCの3つのシステムの元にエントリーを受け付けていました。
ORCディビジョンはエントリーが無く。IRCはモノハル艇にしか対応していないので、結局総合成績はPHRFディビジョンで、ということになったのですが。今回はIRC-ENDORSEDのみとなっています。

PHRFがローカル規格であるのに対し、IRCは英国のRORCとフランスのUNCLが管理する国際的なルールで、日本セーリング連盟(JSAF)のメイン・レーティングです。

IRC規則(日本語訳版)は→こちら(pdf)

“ハンディキャップ”と“レーティング”という2つの用語が曖昧に用いられていることが多いのですが、その辺りはまた別の機会に譲るとして……PHRFにおける修正係数TCFにあたるIRCの修正係数がTCCです。
所要時間に乗じることで修正時間を出す、のは同じ。TFCとTCC、文字を変えているのは無用な混乱を防ぐため、、、かと。

というところで、今回の「日本-パラオ 2024」「パラオ-沖縄 2024」で用いるスクラッチシートを作ってみました。

表計算ソフト(Excel)を使った表です。
C列、C3から下の計算式は、[=$C$2*$B$2/B3]。
意味は、一番上の列(B2)にターゲットとなるボートのデータ(TCC)を入れて、C2のセルに時間(ここでは24時間後)を入力。ある地点を通過した時間ということ。その地点を以下の艇は何時間で通過すれば修正時間が同じになるか。
ターゲットボートの所要時間(C2)にターゲットボートのTCC(B2)を掛けて、該当艇のTCCで割る。それより早ければ勝っている、遅ければ負けている。ということが解る表です。シンプル。

適時ターゲットとなるボート(のTCC)を一番上の行に入力しなおして使います。赤枠の中はいじりません。

列(アルファベット)と行(数字)でそれぞれのセル(表の1枠)を表し、$は絶対参照を表す……というあたりはExcelの基本中の基本。
[=C2*B2/B3]を[=$C$2*$B$2/B3]とすることで、以下にコピペして参加艇を増やしていっても、ターゲットのTCC(B2)とET(C2)は固定されて参照される、ということ。
ターゲットとの差分(delta)のセルは[=C3-$C$2]等となります。-(マイナス)表示になったらより速く走らなければならないということ。

参加艇側で使うなら自艇をターゲットにすればいいし。先行艇がフィニッシュしたらその所要時間(ET)をターゲットにすれば、自艇は何分後にフィニッシュすれば勝てるのか、すでに負けているのかが解ります。

タイムは時間の単位で、3.8時間なら、小数点以下の数値に6を掛ければ、たとえば、0.8時間なら6×8=48。3.8時間=3時間48分と暗算できるので、表をシンプルにするために自分ではインショアレースでも単位を分にしてこのスクラッチシートを使っています。

ところが、長距離レースの場合、まずこの所要時間(ET)を出すのが意外とヤヤコシイのです。
前回の「日本-パラオ 2019-2020」の時なんか12月29日の13:30スタートでしたから、1月8日の午後4時28分って、所要時間は……月をまたぎ年もまたいでいたわけで。指折り数えて……。スタートが7分遅れたなんていったらもう……。

じゃあどうするか?
こちら、B2のセルに「2024年3月10日 13時30分」とスタートの日時を入れて、そこからの所要時間を計算するようにした表です。

Excelでは日時や時間を足したり引いたりできるのでいたって簡単……なのですが、ちょっとコツがいりまして。

まずExcelでの日付けは、内部では1900年1月1日を基準にした数値(シリアル値)で表しています。
数値の「45361」を日付けで表示させると2024年3月10日になるわけ。1900年1月1日から45361日後ということですね。
これが、「3/10」と入力するだけでExcelは勝手に「日付けに違いない」と判断し、さらには入力している年から「2024年」も付け足してシリアル値にしてくれ、表の上では日付けとして表示します。逆に「3割る10」を入力したい場合は「=3/10」としなければなりません。
このあたり自動的にやってくれているから、逆にこちらはちょっと戸惑うわけですけど。

で、翌3月11日のシリアル値は1増えて45362になります。
つまり1日は数値の1。ということは「1」が24時間ですから0.5なら12時間。1/24が1時間と、小数点以下で時間を表します。1/24は0.04166666と割り切れなかったりするので、Excelは細かい時間の計算はあまり向いていないらしいのですが……。そこもまあ置いといて。

で、上の表。B1,B2のセルには、「2024/2/10 13:30」等とスタート時間と終わりの時間を入力。日付けと時間の区切りは半角の空白にします。これで自動的に日付けと時間として入力されます。
D2のセルは単純に[=B2-B1]で、これが所要時間。
……なんですが、シリアル値を引き算しているので、そのまま年月日で表示させると、1900/01/12 1:30なんて表示になってしまいます。そこで表示形式をユーザー定義で、dd”day”h”h”mm”m”としてみました。

このあたりが、なかなかヤッカイなんですが。
逆にシリアル値の時間(1=24時間)を数字の“時間”に変換するには24を乗じます。1時間はシリアル値1の1/24だったわけですから。
つまりC4のセルは[=(B2-B1)*24]。3/10 13:30のスタートから12日と1時間30分後で所要時間289.5時間ということ。
ここでも、時間単位。分は小数点以下で表しています。

後は先のスクラッチシートと同じ。
スタートから12日と1時間30分後の3月22日15:00時点でターゲットの〈TREKKEE〉と同じ修正時間になるには、〈PALMA〉で12時間24分。〈Zero〉で45時間42分のハンデがあるということです。

さらにこれがターゲットのフィニッシュタイムだとすると、他艇のフィニッシュは……、
E5以下のセルは、[=$B$1+(C5/24)]と逆に24で割ってシリアル値に返しています。
つまり、〈TREKKEE〉が3月22日 15:00にフィニッシュしたら、〈PALMA〉は23日の03:23、〈Zero〉は24日の12:40より早くフィニッシュすれば勝ち。ということがわかります。

いかがでしょう。スクラッチシートといってもいろいろ考えられます。各自工夫したスクラッチシートでレースを観戦すると、これまた面白いです。なんといっても、1700マイル。10日以上レースは続くのですから。