レース観戦ガイド(途中経過編)

[race-22]

前回はハンディキャップ(PHFR)の仕組みについて。

経過時間(ET)にハンディキャップ係数(TCF)を掛けて修正時間(CT)を出す、と。これはフィニッシュ時のお話。

それでは、途中経過を判断するにはどうするか。

「日本-パラオ親善ヨットレース」では、古野電気提供のTracking Systemで、レース艇の現在位置はほぼリアルタイムで大会webサイトに画面表示される予定です。

レース中のリアルタイム航跡表示画面。試作版です

お茶の間でお節料理をつつきながら、レース艇が今どこを走っているのか分かるってことで。
こりゃ楽しめそう。

ところが、
前回説明したようにハンディキャップ戦なので、TCFの大きい艇が前を走っていても当然。
なら、どのくらい離していれば勝っているのか。後続艇からすれば、どのくらい離されてもまだ勝っているのか。
この判定が、結構難しいんです。

どこかの島やマークを回航する時間が分かれば、その時点での勝ち負けは簡単に計算できます。フィニッシュと同じだから。
ところが、今回のレースではそういう地点はありません。

となると、
毎日定時の無線通信(ロールコール)時点での位置(緯度/経度)と艇速から、その時点での勝ち負けを計算するしかありません。

ある地点(フィニッシュラインなど)を通過した時間。ではなく、ある時点のポジションから途中経過としての勝ち負けを計算しなければならないわけで。

まず、シンプルなのが、
1:報告された緯度/経度からフィニッシュ地点までの距離(残航)を出す
2:その時点の艇速から予想フィニッシュタイム(ETA:Estimated Time of Arrival)を計算する
3:それにTCFを乗じて暫定の修正時間(CT:Corrected Time)を出す。
という方法。
フィニッシュ間際にはこれでもいいのですが、残航が長いとETAはほとんど意味を持ちません。その時点の艇速で、その後ずっと走り続けると仮定しての計算なんで。

となると、
残航の差から、先行艇の地点に到達するまでかかる所要時間を計算する。
等でもいけそうですが、今回は別の方法を一つ。

1:スタートからロールコールまでの経過時間(19時間とか43時間とか)にTCFを乗じたタイムをその艇のそのロールコール時点での “持ち時間” と考える
2:持ち時間の差が、その時点でのハンデになります。単位は “時間”
3:各艇の残航の差(艇間の距離差)と艇速から、距離を時間差に換算する
4:で、[2]の時間的なハンデと、[3]の時間的な差を比べれば、直感的にその時点での勝敗……修正で何時間遅れているか、何時間前に出ているか、が分かる
という方法はどうでしょう?

2019年12月から2020年1月と、月や年をまたぐような長距離レースなので、所要時間の計算が結構面倒くさいのですが、そこは表計算ソフトを使うとして……。

12月29日 13:00のスタート以降、デイリーレポートを出すことになっています。
お楽しみに。

レース中のデイリーレポートも試作中。なんか面白いことできないかと思案中デス


おっと、残航はどうやって求めるか? 作図するか?

これも、距離が長いとなかなか難しいのです。

メルカトル図法で描かれた海図は角度が正しく表されるようになっているので、2地点間を繋いだ直線(ラムライン)は、実は最短距離ではありません。
ま、近場ならたいした誤差では無いので、航海ではより重要な方位が正しく表されるメルカトル図法が用いられています。
今回のレースのように、南北に走る場合は最短距離とラムラインの誤差は僅かですが、逆に海図の縮尺は緯度によって違ってくるので、長い距離を測るのが難しいんです。

参加艇の艇上ではGPSプロッターが計算してくれて、目的地までの距離は画面に刻々と表示されると思うのですが……。

こちら陸上で待機する広報班もITを活用しようかと。
緯度/経度から距離を計算するページが結構あります。
まずはこちら、

国土地理院だからか、緯度/経度の単位が 度:分:秒。
出力もkm。と陸上仕様。
我々は海洋性の人間なので、緯度/経度は分の下は10進数になります。前にも書きましたが、緯度の1分が1マイル(1.852km)なので。
ま、そこらは手計算で換算するとして、

フィニッシュ地点は、帆走指示書にある、
バーチャルマーク2 (7-15.175N/134-31.467E)に設定。

とりあえず、東京湾の入口である観音埼灯台(35-15.366N/139-44.716E)からの距離を測ると……
3,146.619km と出ました。1マイルは1.852kmなので、1,699マイルですね。

緯度/経度からの位置計算サイトは他にもいくつかあるようですが、ここは国土地理院を信じてこちらを使って見ます。

ちなみに、googleマップでの緯度経度の書式は、

バーチャルマーク2だと、
7 15.175 134 31.467
となります。(南緯/西経だと「-」になる)

入力しやすいけど、2地点の緯度/経度から距離を測る機能はないもよう。
ちなみに、これで観音埼灯台までの距離を測ったら、3144.97kmと出ました。


いずれにしても、ヨットレースでは、目的地に向けて一直線に走る事は希なので、単にフィニッシュ地点までの直線距離からでは途中経過はなかなか表せないのです。だいたいの修正順位となります。

そもそも、横に広がった2艇は、風向によっても順位が変わってくるわけで。
それがまた、ヨットレースの面白いところなのです。

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